抗血栓薬内服下の大腸憩室出血に対し、内視鏡的止血術をした一例

大腸憩室は、様々な理由により、大腸に小部屋を多数作ってしまう病気です。

・憩室に炎症がおきれば、”憩室炎”とよび、ときに重篤化すると膿瘍を形成します。

・憩室に出血がおきれば、”憩室出血”と呼び、大量の下血がみられます。重篤化すればショックとなります。

日本では、大腸憩室の保有率は増加しており、それに伴い、憩室炎や憩室出血が増加しています。

我々内視鏡医があまり好きではない病気、それが”憩室出血”です。

その理由は、以下の3点です。

つまり、内視鏡に時間をかけて出血源を探すもみつからず、後日再出血(例えば、入院管理なら、入院中複数回出血したり、退院日に出血したりし、患者との信頼関係が悪くなることも・・・)する、いわば良性疾患でありながら、悪性的な要素をもちあわせている病気です。

今回は、当院で採用している最新型内視鏡(オリンパスEVIS X1)を使用し、RDI(出血源検索モード)モードを使用し、憩室出血に対して止血成功した一例をご紹介します。

なお、本症例はクロピドグレルという抗血栓薬内服中で止血困難が予想される背景をもっておりました。

一般に、クロピドグレルは侵襲的処置をする上で5〜7日の休薬期間が設けられています(他の抗血栓薬と比べ休薬期間が長い=血が止まりにくい)。

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80歳代、男性。陳旧性心筋梗塞でクロピドグレル(抗血栓薬)内服中、下血で来院されました。

診察時、顔面蒼白状態で、ショック状態にありました。補液と昇圧剤を併用し、バイタル管理をしてからいざ大腸カメラを施行しました。

想定内ではありましたが、やはり直腸より深部は血の海で観察不能な状態でした。

責任憩室をみつけるポイントは、一番血糊がたまっている領域(血糊は腸の動き、出血源のちかくにあるとは限らない)を推測することです。on timeでピューピュー噴き出している憩室出血は少ないです。

上図のように、S状結腸に多発する大腸憩室が無数に見られました。

患者さんの命がかかる状況のため、入念に1つ1つ憩室を刺激していくと、とある憩室から動脈出血が始まりました。

静脈ではなく、動脈出血のため、一瞬で内視鏡画面は視野不良となります。

ここから、EVIS X1のRDIモード(出血源同定に役立つモード)の出番となります。

憩室出血には、①憩室頸部(入口付近)からの出血と ②憩室底部(奥側)からの出血に分類されますが、今回の症例はRDIモードの観察で、②の底部出血であることを確認しました。

責任憩室に医療用クリップを充填し、破錠血管を把持し、完全止血が得られました。

筋層のない仮性憩室底部からの出血が多く,他の消化管出血に比して止血術に伴う穿孔リスクに注意が必要です。